キャリアアップ助成金のデメリット・注意点【2026年度】
キャリアアップ助成金を使う前に知りたい事務負担、継続人件費、就業規則、申請期限、不支給・返還リスクを2026年度の公式資料で解説。正社員化コースの失敗を防ぐ確認表も掲載します。
この記事でわかること
- 助成金より先に正社員化や処遇改善の経営判断があり、増加する賃金・社会保険料・賞与等は支給後も継続します。
- 各コース実施日の前日までのキャリアアップ計画、就業規則、雇用契約、賃金・勤怠記録、支給申請期限を一続きで管理します。
- 書類の誤りが直ちに不正受給になるわけではありませんが、偽りその他不正行為には全額返還、延滞金、2割相当額、5年間の受給制限等があります。
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結論:助成額より先に7つの負担とリスクを確認する
キャリアアップ助成金は、有期雇用、短時間、派遣等の労働者の正社員化や処遇改善を行う事業主を支援する制度です。返済不要というメリットはありますが、助成金を受けるためだけに雇用条件を変えると、支給後も続く人件費や労務管理へ対応できなくなるおそれがあります。
主なデメリットは、取組前の計画、就業規則の整備、対象労働者の確認、賃金・勤怠記録、申請期限、入金までの資金負担、調査・保存対応です。これらは申請書を作る時点ではなく、正社員転換や処遇改善を決める前に確認します。
本記事は正社員化コースを中心にリスクを整理します。コース別の対象者や支給額を知りたい場合は制度解説と分け、この記事では「実行してから困らないか」「不支給や返還をどう防ぐか」を判断してください。
| 注意点 | 起こり得る問題 | 事前の対策 |
|---|---|---|
| 計画提出 | 実施後では間に合わない | 各コース実施日の前日までに提出 |
| 就業規則 | 規定と実態が一致しない | 転換制度・正社員定義・適用日を確認 |
| 人件費 | 助成額以上の固定費が続く | 賃金・社保・賞与等を年額試算 |
| 対象労働者 | 雇用歴等で対象外になる | 雇入日・雇用区分・過去歴を確認 |
| 証拠書類 | 申請書との不一致で不支給 | 契約・規則・賃金・勤怠を月次照合 |
| 申請期限 | 期限超過で申請できない | 賃金支払日から逆算して担当を設定 |
| 支給後 | 調査・返還へ対応できない | 提出書類等を支給決定から5年間保存 |
デメリット1:正社員化より前に計画と規則が必要
2026年度の公式案内では、キャリアアップ助成金を利用する場合、各コース実施日の前日までにキャリアアップ計画を作成・提出する必要があります。正社員化コースなら、正社員転換の前日までに提出できていなければ、後から計画を作って遡ることはできません。
キャリアアップ計画だけでなく、正社員への転換制度を就業規則または労働協約等へ規定し、その規定に基づいて転換します。書面上の規定を用意しても、対象者へ実際に適用する労働条件や運用が違えば支給要件を満たさない可能性があります。
転換候補日を先に決め、計画提出、労働者代表の意見聴取、就業規則の改定・届出、本人への説明、雇用契約の変更を時系列にします。実施日を早める場合は、前提となる手続きも完了しているかを再確認してください。
キャリアアップ計画は実施日の前日まで
計画の提出日は受理控えで確認します。郵送や電子申請の場合も、提出したつもりではなく、取組前に必要な状態になっているかを確認してください。
規則の文言と転換通知を一致させる
転換試験、面接、適用日、正社員の定義などを就業規則へ定めた場合は、その手順どおりに実施し、決定記録と本人への通知を残します。
デメリット2:賃金と福利厚生の増加は支給後も続く
正社員化コースでは、転換後6か月の賃金を転換前6か月より3%以上増額することが要件です。さらにキャリアアップ助成金上の正規雇用労働者は、同じ事業所の正規雇用労働者に適用される就業規則が適用され、賞与または退職金の制度と昇給が転換時点で適用されることなどが求められます。
助成金は一時的な収入ですが、基本給、社会保険料の事業主負担、賞与、退職金積立、昇給、福利厚生は継続費用です。中小企業の重点支援対象者を有期雇用から正社員化した場合の80万円だけを見ず、対象者を今後何年雇用するかで総額を試算します。
たとえば月給を1万円上げると年12万円に加え、社会保険料、賞与連動分、残業単価等へ影響します。支給が遅れる場合や不支給の場合も賃金を減らす前提にはできないため、助成金がなくても継続できる処遇にします。
ここで確認するポイント
- 転換前後6か月の比較対象となる賃金を確認する
- 3%以上の増額を公式の算定方法で確認する
- 社会保険料・賞与・退職金・昇給も年額へ入れる
- 助成金が不支給でも継続できる人件費か判断する
3%以上の賃金増額は比較対象をそろえる
転換前後で名称の違う手当を単純に足し引きせず、パンフレットが定める賃金の範囲と6か月の比較方法を使います。欠勤等がある場合も公式の算定方法を確認します。
固定費の増加を複数年で試算する
助成額と1年目の賃上げ額だけでなく、社会保険料、賞与、退職金、昇給を3年程度で試算すると、制度利用後の実質的な負担を判断しやすくなります。
デメリット3:80万円は全員に一括支給されない
2026年度の正社員化コースでは、中小企業が有期雇用労働者を正社員化する場合、重点支援対象者は1人80万円で、40万円ずつ2期に分かれます。重点支援対象者以外は40万円で1期です。無期雇用からの転換は、それぞれ40万円または20万円です。
重点支援対象者は、雇入れから3年以上の有期雇用労働者、一定の正規雇用歴要件を満たす雇入れ3年未満の有期雇用労働者、派遣労働者、母子家庭の母等、対象訓練の修了者などに限られます。会社が支援したい人という意味ではありません。
正社員化後6か月の定着と賃金支払いを経て第1期を申請し、重点支援対象者はさらに6か月雇用して第2期を申請します。2期目までの雇用・賃金・申請管理を含めて資金計画を作ります。
| 転換前 | 企業規模 | 重点支援対象者 | 上記以外 |
|---|---|---|---|
| 有期雇用 | 中小企業 | 80万円(40万円×2期) | 40万円(1期) |
| 有期雇用 | 大企業 | 60万円(30万円×2期) | 30万円(1期) |
| 無期雇用 | 中小企業 | 40万円(20万円×2期) | 20万円(1期) |
| 無期雇用 | 大企業 | 30万円(15万円×2期) | 15万円(1期) |
申請書用に作り直した勤怠表は使わない
日常の労務管理で使用している原本記録を保存します。システム移行時も、旧システムから対象期間のデータと出力条件を残してください。
差異は提出前に原資料へ戻って確認する
規則、契約、給与、勤怠の間に差があれば、申請書へ都合よく合わせず、事実がどれかを確認します。修正の必要がある場合は法令と公式案内に沿って対応します。
デメリット4:対象労働者の確認項目が多い
対象者の雇用形態だけで支給可否は決まりません。雇入れ日、転換前の雇用期間、過去の正規雇用歴、事業主や関連会社との関係、派遣の場合の扱い、新規学卒者の経過期間などを確認します。
有期雇用が通算5年を超える場合は、助成金上、無期雇用労働者とみなされる点にも注意が必要です。重点支援対象者に該当するか、正社員化コースそのものの対象者か、助成額はいくらかを別々に判定します。
本人の申告だけでなく、雇用契約書、労働者名簿、職歴の申立てに必要な資料、派遣関係書類等で確認します。判断に迷う事情があれば、転換前に管轄労働局またはハローワークへ、具体的な雇用歴と予定日を示して照会してください。
デメリット5:書類の整合確認に時間がかかる
支給申請では、キャリアアップ計画、就業規則、転換前後の雇用契約書、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿などを使って、日付、雇用区分、労働時間、賃金支払いの実態を確認します。申請書だけ整っていても、法定帳簿と一致しなければ審査で疑義が生じます。
厚生労働省の2026年度パンフレットは、出勤簿や賃金台帳について、事業場で調製している原本または原本を複写したものを求めています。原本から加工・転記した書類や、申請用に別途作った記録が明らかになれば不支給となります。
給与計算、勤怠、雇用契約、就業規則を別々の担当者が管理する会社は、毎月の締め後に対象者単位で照合します。差異を後から説明するより、欠勤、休業、手当、固定残業代、賞与等の扱いを発生時に記録する方が安全です。
| 資料 | 主な確認項目 | よくある差異 |
|---|---|---|
| 就業規則 | 正社員定義、転換制度、適用日 | 旧版の規則、規定前の転換 |
| 雇用契約書 | 雇用区分、賃金、労働時間 | 規則と異なる正社員条件 |
| 賃金台帳 | 基本給、手当、控除、支払日 | 3%計算と対象賃金の不一致 |
| 出勤簿 | 勤務日、時間、欠勤・休業 | 契約時間や賃金支払いとの不一致 |
デメリット6:支給申請期限を過ぎると取り戻せない
正社員化コースの支給申請は、正社員転換後6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内です。転換日から単純に8か月後と覚えるのではなく、6か月分の賃金を実際に支払った日を基準に管理します。
給与締日と支払日、対象期間、休日による支払日の変更で期限が変わる可能性があります。第2期を申請できる重点支援対象者は、さらに6か月の雇用・賃金支払いと次の申請期限を別に設定します。
人事、給与、申請担当、社労士のうち誰が期限を管理するかを決め、賃金支払日の翌日に申請準備を始めます。電子申請を使う場合も、入力開始ではなく送信完了まで余裕を取り、提出控えを保存してください。
手続きを進めるポイント
- 転換日
- 転換後6か月の対象期間
- 6か月分の賃金支払日
- 支払日の翌日から2か月以内の支給申請期限
- 重点支援対象者の第2期対象期間と申請期限
デメリット7:支給後も保存・調査対応が必要
助成金は支給決定で手続きが完全に終わるとは限りません。2026年度パンフレットでは、会計検査院の検査対象になる場合があり、労働局へ提出した支給申請書や添付書類の写し等を支給決定から5年間保存する必要があると案内されています。
審査時には実地調査で総勘定元帳等や法定帳簿の確認を求められる場合があり、予告なく調査が行われることもあります。調査へ協力しない場合や指定期日までに追加資料を提出しない場合は、不支給となる可能性があります。
紙と電子データの保管場所、保存責任者、退職者の引継ぎ、給与システム変更時の旧データ出力を決めます。社労士へ申請を依頼した場合も、会社側に同じ提出版を残してください。
不支給・取消しと不正受給を区別する
申請期限超過、対象者要件の不一致、賃金計算の誤り、必要書類不足などで支給要件を満たさなければ、不支給になることがあります。一方、不正受給は、偽りその他不正の行為により、本来受けられない助成金を受け、または受けようとすることです。
単純な記載ミスが直ちに不正受給と決まるわけではありません。ただし、事実と違う資料を作る、勤務実態や賃金を偽る、要件を満たさないことを知りながら申請するなど、不正行為があれば厳しい処分の対象になります。
誤りに気付いた場合は、自社の判断で書類を作り替えたり事実を遡って整えたりせず、提出前なら正しい原資料と公式様式を確認し、提出後なら速やかに管轄労働局へ相談します。相談日、説明した事実、回答を記録してください。
不正受給では全額返還・2割相当額・5年間の制限がある
厚生労働省は、不正に受給した助成金について全額返還を求めています。さらに不正受給日の翌日からの延滞金と、不正受給額の2割に相当する額を納付する必要があります。
不正受給決定日から5年間は、キャリアアップ助成金以外も含む雇用関係助成金を受給できません。全額を返納していない場合はこの期間が延長され、公表基準に該当すれば事業主名や代表者名等が公表されます。
申請代理人が関与していても、事業主名で申請する以上、会社が申請内容と雇用・就業実態の整合を確認する必要があります。「100%受給できる」など支給を保証する勧誘に頼らず、原資料と申請書を経営者または責任者が確認してください。
ここで確認するポイント
- 不正受給した助成金の全額返還
- 不正受給日の翌日からの延滞金
- 不正受給額の2割に相当する額の納付
- 不正受給決定日から5年間の雇用関係助成金の受給制限
- 公表基準に該当する場合の事業主名・代表者名等の公表
解雇・離職がある会社は助成金だけで雇用判断をしない
雇用関係助成金には、一定期間の解雇等や特定受給資格者となる離職が事業主要件へ影響する場合があります。対象労働者本人の退職であっても、退職理由と実態が一致する資料を残す必要があります。
助成金を受けるために必要のない雇用を続ける、または通常必要な人員整理を隠す判断は適切ではありません。経営上の雇用判断と助成金の支給要件を分け、解雇・雇止め・退職勧奨・自己都合退職の事実を正確に記録します。
支給対象期間の前後に離職がある場合は、対象者名、離職日、離職理由、ハローワーク上の判定、会社都合の有無を整理し、申請前に管轄窓口へ確認してください。
申請を見送った方がよいケースと代替策
助成金がなくても正社員化・処遇改善を実施する意思と資金がない場合、転換日までに計画・規則を整えられない場合、雇用・賃金・勤怠の記録に大きな不整合がある場合は、申請を急がない方が安全です。
人件費の継続負担より訓練費が課題なら人材開発支援助成金、事業場内最低賃金の引上げと設備投資を行うなら業務改善助成金など、取組目的に合う制度を比較します。同一の行為について複数の助成金を申請すると併給調整される場合があるため、対象範囲を分けます。
見送ることは処遇改善を否定する判断ではありません。まず就業規則、雇用契約、賃金・勤怠管理を整備し、次の転換候補者から要件に沿って準備する方法もあります。
キャリアアップ助成金のよくある質問
制度の利用を検討する事業主から多い疑問を整理します。個別の支給可否は、取組日の年度に対応した支給要領・パンフレット・様式と、管轄労働局またはハローワークの案内で確認してください。
社労士へ依頼すれば受給できますか
依頼しても支給は保証されません。会社は雇用・賃金・勤怠の実態と申請書が一致することを確認し、提出版と根拠資料を保管します。
書類のミスはすべて不正受給ですか
単純な誤りと、偽りその他不正行為は同じではありません。ただし、誤りを知りながら虚偽資料で申請することは避け、気付いた時点で管轄労働局へ相談します。
正社員化した後に退職したら返還ですか
退職だけで一律に返還とは判断できません。支給対象期間、退職理由、事業主要件、申請後に判明した事実を整理し、自己判断せず管轄窓口へ確認してください。
2025年度の様式を2026年度も使えますか
使いません。様式や支給額は各コースの取組日で変わります。2026年4月8日以降の取組など、該当する日付の最新版を公式ページから取得します。
申請前チェックリスト
- 助成金がなくても正社員化・処遇改善を続けられる
- 各コース実施日の前日までにキャリアアップ計画を提出する
- 就業規則の転換制度と実際の正社員条件が一致している
- 対象者の雇用期間・過去歴・重点支援区分を確認した
- 転換前後6か月の賃金を公式方法で比較した
- 賃金支払日の翌日から2か月以内の申請期限を設定した
- 就業規則・契約・賃金台帳・出勤簿を月次で照合する
- 支給決定後も提出書類等を5年間保存できる
- 外部へ依頼しても会社が申請内容を最終確認する
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公式情報・出典
制度内容や日程は改定される場合があります。申請前に最新版をご確認ください。
